2025年参議院選挙とZ世代の投票行動:なぜ彼らは投票に行かないのか、そして見え始めた変化の兆し

2025年の参議院選挙を迎え、若者の投票行動、特にZ世代(主に10代後半から20代後半)の動向は、社会全体が注視する重要なテーマとなっています。これまで低迷が指摘されてきた若者の投票率ですが、最新の調査では変化の兆しも見え始めています。本稿では、Z世代の投票離れの背景にある複合的な要因を深掘りしつつ、彼らがなぜ投票に行かないのか、そして今後どのように政治参加が促されるべきかについて考察します。


Z世代の政治に対する意外な「関心」と「無力感」の乖離

一般的に「若者は政治に無関心」というイメージが根強くありますが、第一生命経済研究所の調査は、この認識に一石を投じています。Z世代の政治への関心は他の世代とほぼ同水準の44.9%であり、さらに「自分が動くことで社会を変えることができると思う」と回答したZ世代は39.3%と、他世代よりも高い割合を示しています。このデータは、Z世代が決して政治に「無関心」なのではなく、むしろ社会を変える可能性を秘めていると感じていることを示唆しています。

しかし、この関心と実際の投票行動との間には大きなギャップが存在します。公益財団法人明るい選挙推進協会の調査によると、若者の棄権理由として「政党の政策や候補者の人物像など違いがよくわからなかった」(20.0%)や「選挙にあまり関心がなかった」(46.7%)が上位に挙げられています。政治に関心があるにもかかわらず投票しない背景には、「どこに投票すべきか分からない」という「判断基準の不明確さ」が横たわっていると考えられます。


情報過多と「選択の困難さ」が招く投票行動の停滞

近年、選挙における候補者数の増加は顕著です。例えば、参議院選挙の候補者数は2004年の192人から2025年には350人へと大幅に増加しました。特に東京選挙区では32人が立候補するなど、有権者にとって選択肢が多すぎることが問題となっています。

読売新聞の報道によれば、「候補者が多すぎて、調べる気がうせる。1人ひとり調べる時間はない」といった若者の声が聞かれます。インターネットやSNSの普及により情報自体は容易に手に入るようになった一方で、その情報量が多すぎること、そして個々の候補者や政策の違いを正確に理解し、自身の判断基準を確立することが極めて困難になっているのが現状です。この「情報過多と選択の困難」が、結果的に投票意欲の減退につながっていると言えるでしょう。


主権者教育の課題:知識と実践のギャップ

文部科学省の調査では、全国の高校の94.9%で主権者教育が実施されているとされています。しかし、「公職選挙法や選挙の仕組み」を学ぶ学校が76.1%に上る一方で、「実際の参院選を題材にした指導」は44.9%にとどまっています。これは、選挙の「仕組み」は教えるものの、実際に候補者や政策を比較検討し、自らの意思で判断を下すといった「実践的な判断力」を養う教育が不足している現状を示しています。

選挙制度の知識だけでは、複雑な現代社会における政治課題を「自分事」として捉え、具体的な投票行動に結びつけることは困難です。主権者教育は単なる座学に留まらず、ディベートや模擬選挙、社会課題へのフィールドワークなどを通じて、主体的な政治参加の意識を育むことが求められています。


「自分事」として捉えられない政治と情報信頼性の問題

政治が「自分事」として感じられないという感覚も、若者の投票離れの大きな要因です。高校生へのインタビューでは、アルバイトの年収103万円の壁など、自身に直接関わる具体的な問題に触れることで初めて選挙に前向きになったケースが報告されています。これは、抽象的な政治課題よりも、日々の生活に直結する身近な問題が、若者の政治への関心を高めるきっかけとなり得ることを示唆しています。

また、SNSの普及により、政治に関する情報が氾濫する一方で、「選挙フェイク」と呼ばれる誤情報や虚偽情報も拡散されやすくなっています。正確な情報とそうでない情報を見極めることが難しくなり、何が真実か判断できない状況は、若者の政治不信や投票意欲の低下を招いています。情報リテラシー教育の重要性が改めて浮き彫りになっています。


2025年参院選に身勝手なZ世代の投票意識の変化の兆し

このような複合的な課題を抱える一方で、2025年参議院選挙に向けては、若者の投票意識に変化の兆しも見えています。朝日新聞の最新調査では、「必ず投票に行く」と答えた18〜29歳が、前回の37%から54%へと急増しました。これは、Z世代がこれまで抱えていた「無力感」を乗り越え、政治参加への意欲を高めつつある可能性を示唆しています。

NHKによる選挙直前の世論調査でも、10代・20代で「投票する」と回答した割合が前回より15ポイント増の45%に上昇したとされています。民間調査では、大学生(Z世代)に限れば約7割近い投票意向が見られるとの結果もあります。これらの速報値や意識調査は、Z世代の政治への関心と参加意欲が着実に高まっていることを示しています。


Z世代の投票率の現状と今後の展望

過去のデータを見ると、2022年7月の前回参議院選挙では10代の投票率が35.42%、20代が33.99%と、全年代平均(52.05%)を大きく下回る水準でした。2024年10月の衆院選でも同様に低調でした。

しかし、前述の意識調査の結果を考慮すると、2025年参議院選挙におけるZ世代の投票率は、過去よりやや上昇し、35〜45%程度と推計されます。選挙直前の意欲調査値では45%前後を示すものの、実際の投票率は過去の傾向と同様に、それよりは若干低くなる可能性が高いでしょう。依然として全年代平均とは大きな開きがあるものの、投票意向や社会的関心は上昇傾向にあることは間違いありません。最終的な確定値は総務省など公的機関からの発表を待つ必要がありますが、Z世代の政治参加への意識の変化は、今後の日本の政治動向を左右する重要な要素となるでしょう。


投票に行かないZ世代の「日常」と「優先順位」

では、実際に投票に行かないZ世代は、選挙の日に何をしているのでしょうか。彼らの行動パターンや心理を探ることで、その背景にある真意が見えてきます。

多くの調査から、選挙に行かないZ世代は、特別な反発や明確な拒否感を持っているわけではなく、「普段通りの日常を優先している」というパターンが大半を占めることが分かっています。彼らにとって、選挙への参加は、アルバイト、学業、趣味、友人との交流といった日々の生活の優先順位において、必ずしも上位に位置づけられていないのが現状です。


主な「投票に行かない」理由とその背景

投票に行かない理由としては、以下のような要因が挙げられます。

  • 選挙への関心が薄い(約47%): 最も多い理由として、「選挙自体にあまり関心がなかった」が挙げられます。これは伝統的にZ世代に多く見られる傾向です。政治が遠い存在であり、日常生活に直接関係ないと感じるため、積極的な理由が見出しにくいのです。
  • 仕事や生活の忙しさ(約38%): 「仕事があった」「重要な予定があった」など、スケジュール的な理由も大きな比率を占めます。学業やアルバイト、プライベートの予定が詰まっているZ世代にとって、投票のために時間を割くことが難しいと感じるケースが多いです。期日前投票という選択肢があるにもかかわらず、「面倒」「手続きが分からない」と感じて見送ることも少なくありません。
  • 情報不足・選択の難しさ(約20%): 「政党や候補者の違いが分からない」「どこに投票しても変わらないと思う」といった理由も根強いです。前述した情報過多の問題とも関連し、多様な情報の中から自分にとって適切な選択肢を見つけることに困難を感じています。
  • 政治を話題にすることへの抵抗感: 「政治を話題にすること自体が重い」と感じ、日常会話やSNSでも政治の話を避ける傾向が見られます。これにより、政治に関する情報交換や議論の機会が減少し、結果として投票への意識も希薄になりがちです。

投票日におけるZ世代の具体的な行動

選挙当日、投票に行かないZ世代は、以下のような「普通の日常」を送ることが多いです。

  • 友人と過ごす、趣味に没頭する: 投票日を特別な日として意識せず、普段通り友人との外出やオンラインゲーム、動画鑑賞など、自身の趣味や興味のある活動に時間を費やします。
  • アルバイトに従事する: 収入を得るためのアルバイトを優先するケースも多く見られます。特にサービス業など、土日祝日に稼働するアルバイトが多いZ世代にとって、投票のために仕事を休むという選択肢は取りにくいのが実情です。
  • 「特に予定はない」: 何か特別な行動を起こすわけではなく、自宅でリラックスしたり、普段通りの生活を送ったりするだけ、という人も少なくありません。

これらの行動は、Z世代が政治参加を「義務」として捉えるよりも、「自らの生活の優先順位」の中で判断していることを示しています。中には「有権者ごっこ」「キッザニアのようなノリ」と捉え、あえて投票に行かないことで自分なりの「距離感」を持ち続ける若者もいます。投票の意義そのものに対する疑問や、結果に対するむなしさから、「今日は投票には行かずに自分の好きなことをする」と考える人も少なくありません。


若者の投票率を向上させるための提言

Z世代の投票率向上には、単なる啓発活動に留まらない多角的なアプローチが必要です。

  1. 「自分事」として捉える機会の創出: 若者の生活に直結する政策テーマ(例:教育、雇用、社会保障、環境問題など)について、具体的に議論し、政策が彼らの生活にどう影響するかを可視化する機会を増やすべきです。例えば、学校教育において、身近な社会問題を題材にしたディベートや政策提言活動を強化することが有効です。
  2. 実践的な主権者教育の推進: 公職選挙法の知識だけでなく、各政党の公約比較、候補者の人物像や政治理念の分析、フェイクニュースの見極め方など、主体的な情報収集・判断能力を養う実践的な教育プログラムが不可欠です。模擬選挙や、実際に議員やNPO職員との交流機会を設けることも有効でしょう。
  3. デジタルを活用した情報提供と投票プロセスの簡略化: Z世代が日常的に利用するSNSやデジタルプラットフォームを通じて、分かりやすく信頼性の高い政治情報を提供することが重要です。また、オンラインでの期日前投票システム導入や、投票所の設置場所の拡充、QRコードを利用した投票手続きの簡略化など、投票行動への物理的・心理的ハードルを下げる工夫も求められます。
  4. 対話と議論の促進: 家庭、学校、地域社会において、政治や社会問題についてオープンに議論できる雰囲気を作ることが重要です。若者向けのタウンミーティングやワークショップなどを開催し、政治家と若者が直接対話できる場を増やすことも有効です。

まとめ

2025年参議院選挙におけるZ世代の投票行動は、政治への無関心というよりは、むしろ関心がありながらも「判断基準の不明確さ」や「情報過多による選択の困難」、そして「政治を自分事として捉えにくい」といった複合的な要因によって制約されていることが明らかになりました。

しかし、最新の調査からは、Z世代の投票意欲が高まっているというポジティブな変化の兆しも見えています。この変化を確かなものとするためには、主権者教育の充実、政治と若者の距離を縮める具体的な取り組み、そして情報リテラシーの向上など、社会全体で若者の政治参加を支援する環境を整備していく必要があります。Z世代が日本の未来を担う主権者として、その声を政治に届けることができるよう、私たち一人ひとりが意識と行動を変えていくことが求められています。

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