2025年10月9日、日本政治はまさに歴史的な転換点を迎えています。石破茂前総理の退陣を受け、10月4日の自民党総裁選で高市早苗新総裁が誕生しました。そして、10月7日には「麻生カラー」が色濃いとされる新執行部が発足。国会では間もなく臨時国会が召集され、高市氏が新しい首相に首班指名される運びです。
しかし、この新政権が船出するのは、依然として**「少数与党」**という極めて不安定な政治環境の真っただ中。石破政権を苦しめた「衆参両院での過半数割れ」という足枷は、そのまま高市新政権に引き継がれました。
今回は、新体制が直面する「少数与党」の現実、そしてその足元で揺れる連立の行方について、私なりの視点で深掘りします。新しいリーダーシップの下、混沌の国会で何が生まれるのか、コーヒー片手に、ゆったりお付き合いください。
少数与党再確認:高市政権が引き継いだ「不安定」という宿命

まず、高市新政権が直面する基本的な構造、すなわち「少数与党」の定義を改めて整理しましょう。
少数与党とは、与党(自民党と公明党)が衆議院の議席数の過半数に満たない状態です。この状況は、2024年10月の衆院選で自民・公明連立が過半数を失ったことに端を発し、2025年7月の参院選でも状況が改善しなかったため、両院で「少数与党」の厳しい現実が確定しました。
この不安定な状況下では、法案や予算案を通すためには、常に野党の協力が必須となります。かつての石破政権が、2024年度の補正予算案で28年ぶりに予算修正という異例の対応を強いられたのは、まさにこの少数与党の力学の現れでした。野党の要求(高校授業料無償化や子育て支援など)を受け入れざるを得ない「譲歩の連鎖」が、政権運営の常態化していたのです。
高市新総裁が最優先で取り組まなければならないのは、この「不安定」という宿命から脱すること、すなわち連立の再構築と拡大による過半数の回復に他なりません。
少数与党脱却への隘路:公明党との亀裂と国民民主党への接近
高市新政権の少数与党からの脱却戦略は、主に二つの大きな課題に直面しています。一つは既存連立の維持、もう一つは新たな連立相手の確保です。
既存連立の危機:公明党との「理念と政策」のズレ
これまで政権を支えてきた公明党との関係は、高市氏の総裁選勝利以降、緊張感が高まっています。公明党の斉藤鉄夫代表は、高市氏との会談後、「理念と政策の一致があって連立政権は成立する」と述べ、連立の維持に条件を付けました。
懸念の背景には、主に以下の二点があります。
- 高市氏の政治姿勢と「クリーンな政治」:公明党が最も重視する政治とカネの問題、特に自民党の裏金問題に対する高市氏の対応や、新体制で萩生田光一氏(旧安倍派の政治資金規正法違反事件に関連し、処分を受けた人物)を幹事長代行に起用する検討がなされたことに対し、公明党からの批判が予想されています。
- 政策的な相違:公明党は日本維新の会が掲げる副首都構想(大阪都構想を前提とする議論)について、疑問を呈しています。高市氏が維新との連携も視野に入れる場合、連立の根幹である政策の一致が崩れる可能性があります。
少数与党下で、現行の連立基盤である自公が揺らげば、政権は即座に危機に瀕します。高市氏にとって、公明党との関係修復は、連立拡大以前の最重要課題です。
連立拡大の焦点:国民民主党への集中
高市新総裁が少数与党を脱するために最も軸足を置いているとされるのが、国民民主党です。
国民民主党の小竹凱衆院議員は、高市氏の新総裁就任を受け、「経済政策、エネルギー政策だったり親和性が高い」と述べ、協議に期待感を示しました。高市氏が掲げる「積極財政と金融緩和継続」という経済政策は、国民民主党の主張と親和性が高いと見られており、連立交渉の具体的な道筋が高まりつつあります。
しかし、国民民主党も「すぐに連立ということはなかなかない」と慎重姿勢を崩していません。連立に踏み切るには、党内の合意と、国民の理解を得られるだけの政策合致が必要です。
少数与党の新しい力学:熟議の深化か、「麻生カラー」の強硬路線か
石破前政権の時代は、「ヤマタノオロチとの戦い」と揶揄されるように、多様な野党との政策調整と譲歩が中心でした。政策決定の過程が国会主導に移り、「熟議」のチャンスが生まれたとも評価されています。
では、高市新政権の下で、この少数与党の力学はどのように変化するのでしょうか。
「麻生カラー」と強硬路線への懸念
高市新体制は、麻生太郎副総裁をはじめ、麻生派や保守色の強いメンバーが党の要職を占める「麻生カラー」が鮮明な布陣となりました。この布陣は、高市氏が掲げる保守的な政策や強硬な対外姿勢を推進する力を持ちますが、「政権交代」を掲げる立憲民主党や、「改革」を重視する日本維新の会など、野党全体との協調をさらに困難にする可能性があります。
特に、麻市副総裁のように、財政健全化や日本銀行の独立性を尊重する姿勢が強い重鎮が執行部にいることは、高市氏の「積極財政」路線に内部的なブレーキがかかる可能性も示唆しており、政権の政策の一貫性自体が、少数与党下で揺らぐリスクがあります。
予算審議と内閣不信任決議の攻防
まもなく始まる臨時国会から、2025年度の予算審議に向けて、高市政権は最初の最大の試練に直面します。
- 野党第一党・立憲民主党は、「自民党との連立の可能性は極めて少ない」と対決姿勢を明確にしており、予算審議では、前政権以上に厳しい条件闘争や内閣不信任決議をちらつかせた攻防が予想されます。
- 高市氏がもし国民民主党や日本維新の会との連立拡大に成功すれば、少数与党から脱出し、政権運営は一気に安定します。しかし、交渉が失敗すれば、石破政権時代以上の不安定化、すなわち「機能不全」に陥る恐れがあります。
少数与党の未来:解散総選挙か、新たな多党連立か
2025年10月9日現在、高市新総裁の最大の政治的選択肢は、「連立拡大による安定化」か「解散・総選挙による過半数奪還」の二つに絞られています。
総選挙への誘惑とリスク
高市氏の積極的な経済政策が奏功し、支持率が上昇傾向を示せば、少数与党という足枷を振り払い、早期の解散・総選挙に打って出る可能性は否定できません。これは、国民の信を問い直し、過半数を奪還することで、強力な政権基盤を築くという保守本流の選択です。
しかし、公明党との関係悪化や、国民民主党との連立交渉の失敗が重なれば、「少数与党」のまま総選挙に突入することになり、政権交代のシナリオが現実味を帯びてきます。デロイトのレポートが警鐘を鳴らすように、「2025年は2024年以上に激動の年」となる可能性は極めて高いと言えるでしょう。
民主主義のしなやかさと国民の監視
少数与党という状況は、確かに面倒くささや停滞感を国民に与えがちです。しかし、この混沌の中でこそ、公明党、国民民主党、日本維新の会、立憲民主党といった多様な民意を背負った政党が、より真剣に政策を議論し、妥協点を見つけ出すという成熟した民主主義の「しなやかさ」が試されています。
高市新政権の舵取りは、その保守色の強い布陣と強硬な政策により、石破前政権時代よりも野党との対立が先鋭化する可能性があります。この対立が生産的な熟議につながるのか、それとも国会の完全な機能不全に陥るのか。
私たちの声と厳格な監視こそが、この新しい少数与党の時代を、真の民主主義の進化へと導く鍵となるでしょう。
おわりに:高市新政権が目指す「強い政治」が、少数与党という現実の壁を乗り越えられるのか。その答えは、間もなく召集される臨時国会、そして今後の連立交渉の行方に見えてくるはずです。
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